THE蘊蓄 Vol3『椀』その食材の最高のポテンシャルを引き出すタイミングとは?

THE蘊蓄 Vol3『椀』その食材の最高のポテンシャルを引き出すタイミングとは?

割烹における椀はそのお店の考え方、料理に対するご主人の想い、仕事などが一番わかるひと品です。
ボクが季節毎にうかがわせていただいている京都の割烹『緒方』さん。
いつもいつもそのお椀に本当に感動します。
この写真の椀は菊の花と大根を使って秋の月をイメージしたという逸品。
実はこれ、月の満ち欠けを表現していて、お客さんによって月の大きさが違うんです。
ボクのはほぼ新月。こういった見た目の素晴らしさだけではなく、このお店が凄いのはさらに食材のポテンシャルが最高に味わえるところでピシーっと味を決めているところ。
特に椀などは飲み始めの優しい出汁の風味から、全て飲み終わった余韻で『あぁ美味しい』と思えるようにすべてが計算されています。
ひと口目に出汁だけをいただいた時に感じる何とも表現しがたい優しさは素人のボクには絶対に取れない!
なので思わず大将に「このお出汁はどうやって取っているのですか」と聞いてしまいました。すると
「それはですね、出汁をひくタイミングです。皆様がお椀を飲まれる瞬間に合わせて出汁をひいているんです。
例えば3組のお客様がバラバラのお時間にお越しになった場合は3回出汁をひかせて頂いています」
つまり最高の出汁は造り置きしておくのではなく、そのお客さんの椀のために毎回作っていたんです。
椀に入った食材のことも何から何まで計算しながら作る、これこそが”味の優しさ”になっているんだなぁ。

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